心の苦しさと悩みを解決する記憶ネットワーク再構築療法

01 投影と転移

投影と転移の概要

■投影
自己に対する自分のイメージを、目の前の相手に映し出すこと

■転移
自分が過去に接した人物を、目の前の相手に映し出すこと。同様に、過去の環境のイメージも、現在の自分を取り巻く環境に映し出される。

これら投影・転移が生じているときは、あたかも目の前の相手とやりとりをしているように感じるのですが、実際には、目の前の相手ではなく、自分の頭の中に創り出した相手(イメージ)とコミュニケーションしているということができます。

別の表現をすると、自分と相手の間に擦りガラスのようなフィルターが存在するために、

  • 事実を客観的に把握できない
  • 自分の本当の気持ちが表現できない・伝わらない
  • 相手の本当の気持ちが伝わってこない

といった状態になっているということができます。

このようなコミュニケーションを続けていると、自分の気持ちに沿わないやりとりに、お互いが苛立ちを覚えるようになります。

01-01 コミュニケーションにおける登場人物

ある人とやり取りをしているとき、見かけはその人と直接やりとりしているように見えても、直接的なやり取りを妨げる沢山の人に関わるイメージや、環境に関するイメージが想起され、直接的なやり取りを妨げるような状況は発生しています。

この図1では、「過去の人間関係が、目の前の人や、そのやり取りの中に映し出される」ということを示しています。

投影や転移は日常的に生じており、多くの場合、大して問題につながることはありません。

しかし、投影・転移の内容が、社会において一般的なやり取りからの乖離が大きくなったり、コミュニケーションにおけるその比率が大きくなったりするほど、実際の相手との対話が疎かになり、意思の疎通が困難になって、お互いの関係はギクシャクしていきます。

01-02 投影と転移が生じているときのコミュニケーション

図1を簡素化すると、図2のようになります。

実際の相手のことを『実存人格』、それぞれの頭の中に生じる相手のイメージを『仮想人格』と呼ぶことにします。

図2を元に、投影・転移が生じているときのコミュニケーションを図にすると、図3のようになります。

図3のような状態になると、『投影と転移の概要』で説明したように、相手とやり取りしているのか、自分の中で自問自答しているのかが分からなくなってしまうことが理解できると思います。

しかし、普通、私たちは、このようなやり取りを、全て目の前の相手とやりとりしていることと信じて疑うことはありません。

01-03 仮想人格

投影・転移をもう少し細かく考えていきます。

仮想人格の役割を理解するために、図1をもう少し詳しくすると、図4のようになります。

投影も転移も「相手に自分の中のイメージを映し出すこと」と説明されることが多いのですが、次のように理解する方が実態に近いと考えています。

  • 転移は、相手側に仮想人格を創り出すこと (→ 『転移仮想人格』と呼ぶことにします)
  • 投影は、自分側に仮想人格を創り出すこと (→ 『投影仮想人格』と呼ぶことにします)

よって、図4では、ここまで相手の側にまとめて記述していた仮想人格を、転移仮想人格と投影仮想人格に分けて表してみます。

01-03-01 仮想人格の役割


■現実人格

その場面に存在する本物の自分。

自分らしく自然に感じ・考え行動しようとします。

自分自身に大切なものは何か、自分が本当はどうしたいのかなど、本当の気持ちを知っています。

■転移仮想人格

その場面での言葉、行動などの意味づけを行う役割。

過去に頻繁に遭遇した状況や言葉を理解したときと同様の解釈を行います。

これらは、自分の行動のモデル(モデリングの対象)になる人たちと理解することもできます。


更に、次の3つの人格に細分化することができます。

  • 陰性転移仮想人格 : 陰性投影仮想人格の見張り役
    自分にとっての安全を脅かした人・状況の残像
    (怒る、叱って育てる、辛い気持ちになった状況 …)
  • 陽性転移仮想人格 : 陽性投影仮想人格の見張り役
    喜びを与えてくれた人・状況の残像
    (褒めて育てる、嬉しい気持ちになった …)
  • 安心転移仮想人格 : 自分の安心投影仮想人格の案内係
    安心を感じさせてくれた人・状況の残像
    (苦しい気持ちを回復させてくれた、自分にとっての喜びを分かち合ってくれた、何でもない状態の自分をそのまま受け入れてくれた … )

■投影仮想人格

転移仮想人格が解釈した場面ごとに、自分の経験において適切と思われる防衛機制を効率的に生じさせるよう自分自身をコントロールする役割です。

  • 陰性投影仮想人格 : 危険を回避するための自分の監視役
    苦しさが回復されずに耐えた体験、自分の意思に反した不快な体験 … をした自分が、その再体験を防ごうとする。外から与えられた価値観にも縛られます。
    [危険の排除を求める。妥協した安全を求める。]
  • 陽性投影仮想人格 : 褒美を得るための自分の監視役
    快の感覚が得られた体験、褒められた体験 (自分の望みとは無関係) … をした自分が、その再体験を求めようとする。外から与えられた価値観にも縛られます。
    [行為に対する見返りを求める。手っ取り早く確実に喜びを得るために、妥協した喜び求める。]
  • 安心投影仮想人格 : 自分らしく振る舞うための安心を与えてくれる応援団
    共に喜んでもらえた体験、つらいときに抱きしめてもらった体験、苦しさが回復した体験、何でもない自分として安心して過ごした体験 … をした自分が、時々の自分の感覚や感情にふさわしい体験を、再体験しようとする
    [本当の安心・安全、喜びを求めようとする]

そして、人生を左右するほどの影響のある最も重要な投影・転移は、

  • どのようなときに親に怒られ、どのようにすれば親を怒らせないで済んだか?
  • どのようなときに親に褒められ、どのようなときに親に褒められなかったか?
  • どのような時に親から抱きしめられ、どのような時に親から抱きしめられなかったか?

に関わるものです。

これらをベースにして身に付けた反応の習慣が、私たちを幸福と不幸に振り分ける基礎となるのです。

【補足:子供との関わりで大切なこと】

これを踏まえて、子育てで大切だと考えることを説明します。

子供が、親の感情ではなく、子供自身の感情に合わせて次のような対応をしてもらえたかが、非常に重要になってきます。

  • 嬉しいときに、
    ・共に喜んでもらえたか?
    ・放置されたか? 責められたか?
  • 感情(悲しい・つらい・苦しい…)を感じたときに
    ・安心になるまでただ抱きしめてもらえたか?
    ・放置されたか?、責められたか?

それぞれのときに、前者のような親の対応が、子供の安心投影仮想人格を育てるためにはとても大切です。

ここを丁寧に対処すると、心の傷は都度回復します。

しかし、ここが疎かになると、家庭外での様々な不快な体験は、陰性投影仮想人格を強化し、トラウマ(陰性転移仮想人格的な記憶)として心に傷を残してしまうのです。

これは、自分の体験でなく、他人が体験す状況に臨場することでも起こります。

例えば、『いじめ』においては、いじめられる人、いじめる人の心のケアだけでなく、いじめを目撃する人の心のケアも大切なのです。

01-03-02 投影仮想人格と転移仮想人格の関係

図4で表した投影と転移を、実存人格と仮想人格を切り取って、人と人のコミュニケーションを図にすると図5のようになります。

このように2人の間には、4人の仮想人格が割り込み、言葉の意味を歪曲して、コミュニケーションを阻害するフィルターとして働いています.

通常、投影仮想人格と、その基となった転移仮想人格とが、「過去のある状況とその時に許された行動」という形で一対になっています。

(ちなみに、この対としての関連性が曖昧になることを汎化といいます。)

このフィルターは、幼少期における防衛機制の必要性が大きければ大きいほど、厚く強固なものになると考えられます。

仮想人格の働きをフィルター機能として説明すると次のようになります。

  • 投影仮想人格は、自分の心からのアウトプットを歪曲して行動化させる
    (自分の自然な行動や言動を、自分にとって不自然な行動や言動として歪曲して表現させる)
  • 転移仮想人格は、自分へのインプット(自分が受け取る刺激)を歪曲して理解させる
    (相手の行動や言動、風景に、自分にとって日常的だった意味を含ませ、歪曲して認識させる)

つまり、フィルターによって、インプットもアウトプットも歪曲されてしまうのです。

このように、フィルターによって歪曲された情報が多くなると、客観的な事実と主観的な事実(自分の認識)が、大きく乖離していきます。

そんな状態になってしまったときの認識を妄想といいます。

また、これに加えて、各々の表現力や理解力、及び、その速度の相違によっても、正しいコミュニケーションは阻害されることになります。

図5でフィルターとして表した仮想人格を、図4のように自分側と相手側の適切な位置に書き分けると、図6のようになります。

図6では、次の4つのコミュニケーションのルートを示しています。

  • 自分の心 → 相手の心
  • 自分の心 ← 相手の心
  • 自分の心 → 自分の投影仮想人格による変換 → 相手の転移仮想人格による変換 → 相手の心
  • 自分の心 ← 自分の転移仮想人格による変換 ← 相手の投影仮想人格による変換 ← 相手の心

投影・転移が発生している時の、人と人とのコミュニケーションが、伝言ゲームのように複雑になっている様子が理解できると思います。

01-03-03 投影仮想人格と転移仮想人格の具体例

自分を守る

インプット(相手の表情・行動・言動や状況の理解)の歪曲は、過去の経験(主に、幼少期の親子関係)に自分自身を適応させるために生じています。

例えば、親から「怒鳴らないから、本当のことを話しなさい!」と言われたから、子供が本当のことを話したのに、親はこっぴどく怒鳴りつけるといったやり取りが日常的に行われていたとします。

この子供にとって、「本当のことを話しなさい」という言葉は、「本当のことを話すと怒鳴りつけてやる!」という意味に変換して理解されます。(ダブル・バインドと言われるやり取りです。)

そして、色々な思考錯誤の結果、自分が被る被害を最小限に抑えられる対処を学習し、そのような反応の習慣を身につけます。

例えば、『自分の気持ちを分かってもらいたいけど、親のあの言葉に対しては、本当のことを分かってもらおうとすると怒鳴られるから、何も言わずに苦しそうに黙ってうつむいている方がまだマシ』といった感覚です。

これは、適応や順応と呼ばれる条件反射を身に付けた状態です。

そのようにして身に付けた反応を引き起こすサポートをするのが、投影仮想人格の役割です。

何かをしようとしたときに、それが「親の怒りそうなこと」かどうかをチェックし、「Yes」と認識すれば、「それはしない方が良いよ」という助言を与えてくれます。

この助言は、予感・嫌な雰囲気・直感という形で伝えられます。

そして、親から怒られているときは、親をそれ以上怒らせずに収まりやすい行動を自動的に生じさせます。

前述の例のような経験を繰り返した子供は、外でつらい経験をして家に帰って泣いているときに、親から「どうして泣いているの?本当のことを話してみなさい…」と優しげに言われても、黙ってうつむいてしまいます。

また、親以外の優しそうな人から、裏のない同じ言葉を投げ掛けてらっても、同じように苦しそうに黙ってうつむいてしまいます。

これが、転移による反応です。

もちろん、親以外につらい思いをさせられても、投影仮想人格が作られます。

しかし、つらい気持ちになった子供を、親や他の大人が、子供が安心な気持ちになるまでじっくり抱きしめてあげれば、それは定着しなかったり、定着しても強固なフィルターとして働くほどにはなりません。

親に怒られた子供は、もう一方の親や他の大人が同じようにしてあげれば良いのです。

そのようにして身に付けた投影仮想人格による防衛機制は、生まれ育った家庭を主要な生活の場とする子供時代は、最良の方法で、家庭内で様々な諍いが生じることを防いでくれます。

しかし、家の外の世界や、成長して親の保護下から離れた世界では、そのやり方では通用しなくなります。

逆に言えば、社会人として出来た方が良いことを、子供だからという理由で押さえつけていれば、成人後でも同じ行動を繰り返してしまうようになるということです。

成人して、親の監視から離れて自由になったはずなのに、自分で考えて行動しようとしても、投影仮想人格から、したいことには「するな、するな」というメッセージが、したくないことには「しろ、しろ」とメッセージが送られて、そんなメッセージに振り回され、支配されてしまうのです。

投影仮想人格は、『自分を守ってくれようとする気持ち』が強すぎて空回りをしているような感じです。

このようなことによって、自由に感じ考え行動することができない状況からは、容易には解放されません。

そして、そんな状態に、人の心は苦しさを感じます。

少し話がそれますが、予測される危機から自分のことを一生懸命に守ってくれようとする人は、初めはありがたくても、次第に自分を苦しめる人に変わっていくのと同じです。

守ろうとする気持ちが強すぎると相手を傷つけてしまうというのは、現実の人でも投影仮想人格でも同じです。
 

他人を批判する

自分が回避したいと感じる方向に突き進む人に対して、次のような反応をしてしまうのも、投影仮想人格が「仮想人格の役割」で説明した自分自身の応援団になれずに監視役になってしまったことが原因です。

  • 「それはやるべきではない!」と相手に対する怒りを感じさせる
  • 「そうしない方がいいと思っていたら、やっぱり君はつらい目に合ってしまった。だから、それをやった君が悪いんだ」と相手のつらい気持ちに塩を擦り込むような反応を引き起させる
  • 自分と同じ弱点を持った人だと感じた相手を、嫌ったり、同情したり、自分と同じ理想を目指すよう励ましたり、それを目指さないことを批判したりさせる

逆に、自分がしないようにしていることをやって成功する人に対して、怒りを覚えたりもします。

このようなとき、他人を批判しているだけでなく、実は、常日頃から自分をそのように戒めています。(本当の自分も、そうすることを望んでいるのに、それを無意識に抑えつけて … )

簡単に言うと…

投影仮想人格は、自分自身を守ろうとし、また、他人を守ろうとしているのです。 ただ、方法には問題があるのです。 人の気持ちとは関係なく、あれこれ人の世話をやくお節介者なのです。

01-03-04 子育てで大切なこと

子育てにおいて次の2つのことが大切です。

  • 子供がやりたいと言ったことは、頭ごなしに否定せず、応援する気持ちでやらせてみること
  • 子供がやりたがったことを、実際にやって失敗したら、つらい気持ちになっている子供を安心になるまで抱きしめてあげること

親のこのような対応によって、投影仮想人格を、『自分自身を監視する役割よりも、自分自身を応援する役割の方を大きく持った存在』として、子供の人生に寄り添わせてあげることが出来るのだと考えます。

そして、この応援団的な投影仮想人格を心に備えるから、何事にも挑戦するような姿勢をとれるようになるのです。

自分を不自由にするのは転移の働きです。

それによって、様々な環境に適応しながら生きています。

逆に、人が、全ての転移から解放されれば、真の自由を手に入れることができるのかもしれません。

しかし、それでは、社会は成り立ちません。

転移は、環境や人間関係に順応するためには必要なものです。

ですが、順応しすぎると、社会は安定しても、自分らしさはなくなって自分が苦しくなってしまいます。

その結果、結局、社会は不安定になってしまいます。

ですから、子育てにおいては、転移や投影は必要最小限にとどめ、その場その場でしっかりと感じ、じっくりと考え行動する能力を身につけさせることあ大切だと考えます。

幼少期に適応しなければならない制限事項が多すぎると、成長の過程や成人した後に、学校が変わったり職場が変わったりという環境変化があると、過去に身に付けた多くの制限事項を全て書き換えるような作業が心の中で必要になります。

普通の人なら、そんな作業は必要無いような環境でも、適応し過ぎた人にとっては、必要な作業なのです。

これは、価値観崩壊という言葉がふさわしいかもしれないくらいの大変な作業です。

環境の変化の度に、そのような作業を繰り返していては、心は参ってしまいます。

また、既に、心が参ってしまっていた場合には、そんな作業を行うことができません。

教育社会という特殊な世界へ適応し過ぎることも、社会の中で自分らしく生きていくことを妨げるように、投影仮想人格に影響することがあると考えています。

また、指示待ち人間が増えていると、指示待ち人間を責めるような風潮がありますが、そこにも同様の背景があるのです。

本人ばかりを責めるのは、筋違いなのです。

01-03-05 より良いコミュニケーションのために

転移を起こしている状態を表す図6を簡素化し、図7のように表してみます。

コミュニケーションを円滑に行うためには、この図7のようになりがちなコミュニケーションから、仮想人格を排除する必要があります。

そして、そのために自分にできることは、自分の投影や転移を最小限にとどめ、図8のように自分に2つの仮想人格を生じさせないように心がけることです。

仮想人格を全く生じなくすることは、おそらく不可能です。

しかし、お互いにそのように意識し努力することで、2人の心が直接に触れ合うような本来のコミュニケーションの実現につながるのです。

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この記事は、ピュアハート・カウンセリングの心理カウンセラー 田中 順平 が書いています。

心理カウンセラー 田中 順平

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