心の苦しさと悩みを解決する記憶ネットワーク再構築療法

03 抜け出せない思考による苦しさ

3-1 行動のサイクル

人が何かを感じると、次のような行動のサイクルに従って行動します。

【行動のサイクル】

■ステップ1:何かを感じる

■ステップ2:自分なりに、状況を把握する

■ステップ3:自分なりに、感覚の原因や解決策を考える

■ステップ4:自分なりに、行動をする

■ステップ5:自分に生じていた感覚が消失する

行動のサイクルは、何かを感じることによって始まります。

行動のサイクルの目的は、適切な対処をして、きっかけとなった感覚を消失させることです。

これは「2-7 不快は快で相殺できない」で説明した楽な状態を取り戻すことに当たります。

きっかけとなった感覚が生じているうちは、行動のサイクルは繰り返され、その感覚が消失すると行動のサイクルから抜け出します。

例えば、「空腹に気付いたときに食べはじめ、空腹感がなくなると食べるのをやめる」という一連のことを思い浮かべると、行動のサイクルのイメージがつかめると思います。

この行動のサイクルの流れから、胸の苦しさを抱えているときの状態を想像することができます。

胸の苦しさを感じると行動のサイクルが始まり、胸の苦しさ(ステップ1)があるうちは、ステップ2~ステップ4を繰り返すことになります。

また、心に苦しさを抱えていなくても、何かを感じて始まった行動のサイクルにおいて、何らかの理由でステップ4の行動が起こせなければ、ステップ2~ステップ3を繰り返し、行動のサイクルから抜け出せなくなります。

これは、解決できないことをいつまでも抱え込んでいる状態(悩んでいる状態)です。

いつも何かを解決しようとして、考えが頭をグルグルと駆け巡っていると、精神的に疲労して心が苦しいと感じるようになってしまいます。

そんな状態でいつも通りに社会的活動をするには、かなりの頑張りが必要で、体もくたびれてしまいます。

そのような状態に陥らないために、何らかのきっかけによって行動のサイクルが始まったときには、できる限り早い時期に、正しい対処によってステップ5に結びつけることが大切です。

3-2 行動のサイクルが終わらない状態

行動のサイクルが終わらない状態を、次の3つに分類して説明します。

(1)胸部の慢性化した不快感のため、頻繁に不必要な思考が始まる(ステップ1の問題)

(2)偽解決へのこだわりが生じている(ステップ3の問題)

(3)何らかの事情によって行動のサイクルが完結できない(ステップ4の問題)

3-2-1 胸部の慢性化した不快感のため、頻繁に不必要な思考が始まる

胸部に慢性化した不快感があると、人は行動のサイクルの始まりとなるステップ1の刺激として受け取ってしまうので、続くステップ2から先の流れが始まってしまいます。

何でもない場面でも、行動のサイクルが始まってしまい、ステップ2につながるので、気になったことを次から次へと問題と考えて、解決しようとしてしまいがちになります。

そのような問題を解決したときは、少しスッキリした気分になることもありますが、それらを解決したところで慢性化した胸部の不快感を根本的に解消することにはつながりません。

自分の置かれた状況に問題を見つけられなければ、哲学的なことや心理学的なことに意識が向かいがちになります。

しかし、答えを求めてもはっきりした答えがないのが哲学的な分野です。

心理学的なことに答えを求めれば、様々な著書で、症状や状態の心理学的な説明を読むことができますが、それらを知っても、なかなか解決に結びつかないのが正直なところです。

このように、この方向に意識が向かうと、いつまでも「考える」ということを続けてしまいがちになります。

目先のことを次々に解決することも、哲学的・心理学的な答えを追い求めることも、どちらも、自分の本当の望みとは無関係です。

ですから、そのようなことに必要以上のパワーと時間を費やしてしまわないように、まず、胸部の慢性化した不快感に直接的に働きかけて、それを解消しようとすることが大切です。

この方法は「2-2 生じた感覚や感情の対処法」を参考にしてください。

3-2-2 偽解決へのこだわり

「偽解決(ぎかいけつ)」とは「それを解決すれば、自分の悩みから解放される」と考えていることが、本当の解決にはつながらない課題や解決策を指す言葉です。「お金持ちになったら幸せになれる」とか「仕返しをしたら自分の気持ちが救われる」といった考えは、偽解決の代表的な例です。

「2-7 不快は快で相殺できない」での説明を思い出して頂ければ、このような偽解決が、本当の解決にはつながらないということは、理解できると思います。

「自分にとっての本当の幸せとは何か?」という問いへの答えがないままに、一般的な視点で因果関係がありそうなことを結びつけて、「お金持ちになる」、「一流企業に就職する」、「結婚する」といった外的なことを目標としても、それが実現したからといって、自分が幸せな気持ちになるとは限りません。

このような目標を設定してしまうのは、「3-2-1 胸部の慢性化した不快感のため、頻繁に不必要な思考が始まる」で説明した流れによって、「心が苦しいという感覚」と「たまたま気になった課題」とが結びつき、心の苦しさが、その結びつきへのこだわりを生じさせてしまうからです。

このような状態に陥ってしまうと、それに取り組む過程で新たな気付きが得られない限り、目標を達成できたとしても、もともとの心の苦しさは残ったままになります。

ただ、そのような課題でも、解決したり実現できれば、そのときは多少はスッキリした気持ちになるので、「同じようなことをもっとやれば、もっとスッキリするに違いない!」と錯覚してしまいます。

そのようにして、同じ方向でこだわり続ければ、「もっとお金持ちになってやる!」とか「もっとひどい仕返しをしてやる!」などと、欲望を際限なくエスカレートさせてしまうことになります。いじめや仕返しなどがエスカレートしやすいのはこういう理由です。

一旦、偽解決にとらわれてしまうと、それが正しいかどうかを疑わなくなってしまうので、自分だけでは、そのとらわれから逃れることは難しくなります。

人の助けを借りたり、指導を仰いだり、日常的に人と会話したりすることが偽解決のチェックになります。

ですから、心の苦しさはひとりで解決しようとしない方が良いのです。

偽解決にとらわれることなく、心の苦しさと向き合うために、もう1つ大切なことがあります。

本人は「これを解決すれば自分は幸せになれる」と信じて疑っていないのに、他の人から「間違っている」と言われても、その指摘を簡単に受け入れることはできません。

それを認めて課題を失ってしまえば、苦しさから脱出するための目標がなくなり、救いのない世界に投げ出されて、絶望せざるを得なくなってしまうと感じるからです。

前にも書きましたが、人の望みを突き詰めていくと、「自分のほんのささやかな感覚や感情に合意して欲しい」というところにたどり着きます。

この「自分のほんのささやかな感覚や感情に合意して欲しい」という気持ちが大切にされていると感じられて初めて、自分が救われる世界があることを感じ、安心な気持ちが芽生え、偽解決を手放せるようになるのです。

偽解決を考える上で、参考になりそうなことを3つ説明しておきます。

3-2-2-1 コンプレックス

コンプレックスは偽解決の1つです。それがコンプレックスであるうちは、「これさえ解決すれば、心の苦しさから解放される」と思うことができます。

しかし、コンプレックスを解決してしまうと、心の苦しさや悩みの原因がなくなってしまいます。

コンプレックスは、それに悩んでいること自体は苦しいことなのですが、それを原因と考えることで、「原因もなく生じる苦しさは、一生解決できない」という絶望からは救われるのです。

コンプレックスは、いつまでも心の苦しさの原因であり続ける必要があり、「解決されてはならない」という特性を持っています。

コンプレックスを抱えている部分は、その克服のために相当の努力をしていて、他人からは長所に見えることも多くあります。

しかし、他人が長所だと認めても、本人がそれをコンプレックスだと言い張ることが多いのは、長所だと認めてしまうと「何の原因もないのに、心に苦しみを感じている」と受け入れなければならなくなることに、無意識に恐怖を感じているからなのです。

後に説明する「3-2-3-3 夢にしてしまう習慣」も同様です。

3-2-2-2 プライド

プライドという言葉を「あの人はプライドが高い」といった使い方をするとき、コンプレックスの裏返しの意味があります。

プライドが高いと思われがちな人は、「何かが人よりも優れている」という意識によって、心の苦しさや悩みを帳消しにしようとしたり、「お前は劣っている」という誰かからの責めを跳ね返そうと踏ん張ったりしている状態なのです。

このような心理状態になる背景には、自分の様々な特徴を否定された子供時代があり、そんな生活の中で「相手の否定を跳ね返せたこと」、「相手が自分を認めたこと」、「これで自分を相手に認めさせると誓ったこと」などが影響していると考えられます。

そして、そんな相手から離れても、相手から否定され続けた頃の自分が決めたことに、自分自身がこだわってしまっている状態です。

否定されることを繰り返し体験してきた人にとって、「自分を守ることができた部分」、「それによって自分を守ると決めた部分」を否定されることは、自分が全否定されることを意味するのです。

このようなことが分かると、これまでプライドが高いと感じて理解できなかった相手が、そこを否定されることを極度に恐れて、何が何でも守ろうとしてしまう気持ちは理解できると思います。

自己否定を繰り返してしまうのも原理はこれと似ています。

自分の様々な特徴を否定された子供時代があり、その頃に否定されない自分に変わろうとしていた努力を、自分を否定していた相手から離れても、止められなくなってしまった状態だということができます。

ですから、自己否定は、自分の望みに従って行っている訳ではなく、もともとは、自分以外の人や社会などの否定を自分が受け入れるところから始まっているのです。

3-2-2-3 コア・トランスフォーメーション

コア・トランスフォーメーションという手法は、自分が正しい解決策と思っていることが偽解決かどうかを確かめるのに役立ちますので紹介しておきます。

実際のコア・トランスフォーメーションは無意識を利用して行うのですが、これを意識の世界で応用すれば偽解決を点検できます。

「望みを実現した状態を十分に体験した後で、自分は何を望むだろうか?」と自分に問い、その答えを確認し、次に、それが実現したところをイメージの中で十分体験します。

そして、同じ質問と体験を、新たな望みが浮かばなくなるまで繰り返します。

次の望みが浮かばなくなる最後の望みが、自分が本当に求めていることだという考え方です。

現実の世界で何かを実現しようとすると、様々な課題をクリアしなければならず、その実現までに長い期間を必要とします。

そこで、それらのプロセスを全て省略して、イメージの中で望みを実現させてしまうのです。

このようにして自分の望みを点検すれば、例えば、「人生をかけて努力し続けて、年老いてようやく望みと思っていたことが実現できたけど、結局、心は満たされなかった」というようになることを回避するのに役立ちます。

3-2-3 何らかの事情によって行動のサイクルが完結できない

3-2-3-1 行動のサイクルが完結できない状態

行動のサイクルの中でせっかく考えても、行動を起こせなければ、行動のサイクルが始まるきっかけになった感覚を解消することはできません。

また、1つのサイクルが未完了なので、それを実行した結果を受けて始まる新たなサイクルへと進むこともできません。

そのため、行動のサイクルのきっかけとなった感覚があるうちは、同じサイクルの中で思考をループさせることになります。

ほとんどの場合、自分が働きかけなければ、現実の世界では、自分に都合の良いことは起こりません。

そうこうしているうちに、他人の気持ちが組み込まれながら状況は刻々と変化し、時間の経過とともに自分の望みが実現する可能性は低くなってしまいます。

そして、自分の気持ちが反映されていない結果となってしまうと、心にモヤモヤとした感覚が残ります。

その感覚を適切に対処して消失できなければ、不快感を慢性化させてしまったり、すでに抱えている慢性化した不快感を強化してしまうことになります。

3-2-3-2 行動のサイクルを完結できない事情

考えたことを行動できない原因には、次のようなことが考えられます。

(ア)気持ちが混乱していて、解決に向けて行動できる状態になっていない

(イ)自分が考えたように行動してはいけない現実的な事情がある

(ウ)過去の同じような状況で行動できなかった事情があり、その学習の影響によって、現在の心にもブレーキが掛かってしまう

(ア)(イ)は、誰かに相談したり、心理カウンセリングを活用したりして、気持ちを整理することで解決できる可能性があります。

ただ(ウ)のような場合は、一般の人に相談しても心のブレーキへの対処は難しいので、心理カウンセラーなどの専門家を活用する方が良いでしょう。

(ウ)については、「5 条件反射に支配され自分の思い通りに行動できないストレスによる苦しさ」のところで、詳しく説明します。

3-2-3-3 夢にしてしまう習慣

考えたことを行動できなくても、同じような思考の繰り返しから抜け出す裏技的な方法があります。

考えたことを、夢とか憧れにしてしまうのです。

そうすれば、望みを実現するために具体的な行動を起こす必要がなくなり、そのための思考から解放されます。

また、漠然とそれを望むことで、「いつかは実現させよう」と淡い希望に浸ることもできるのです。

しかし、この夢の大部分は諦めの気持ちから作られているので、ほとんど実現されることはありません。

むしろ、実現しないことに意味があるとさえいえます。

コンプレックスが解決できないことに意味があるのと同じです。

このような習慣を身につけてしまうと、直ぐにでも実現できることまで、いつまでも夢のままにして放置してしまいがちになります。

自分の夢を改めてチェックし直してみて、もし、直ぐにでも実現できそうなものが見つかれば、その実現に真面目に取り組んでみると、「『望みの実現を妨げられる苦しさ』から逃れるために、望みを夢にしてしまう」という過去の習慣から抜け出すきっかけになると思います。

但し、心の苦しさの解消と結びついている夢は、それを実現してしまうと心の守りを失ってしまう恐れがありますので、周りに流されずに、自分の心と相談しながら、自分のペースで進めた方が安心です。

できれば、夢の実現と並行して、心の苦しさの解消に取り組む方が良いと思います。

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この記事は、ピュアハート・カウンセリングの心理カウンセラー 田中 順平 が書いています。

心理カウンセラー 田中 順平

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