ボクと君とのトラウマ・タイムトラベル
「ボクには、トラウマがあるんだ。」
親友になった君に、ボクはうつむきながら打ち明けた。
「そのことが、そんなに気になっちゃうの?」
君は心配そうにボクの顔をのぞきこんだ。
「じゃぁ~、行ってみようか?」
君が言った。
「行くって?
もう過ぎてしまった過去のことなのに!!」
「でも、気になるんでしょ?
もう過ぎてしまった過去のことが・・・」
君が言った。
「うん」
ボクはうなずいた。
「そう思うのなら、その時にもう一度戻って、
何とかするしかないじゃない?
ボクも君の側にいて応援してあげるから・・・」
君と話していると、戻れないと思い込んでいた過去にも、
また、戻れそうな感じがしてきた。
そして、君が協力してくれたら、
あのときに戻れば何とか出来そうな気がした。
でも、気が乗らなかった。
何だろう、この気持ちは・・・?
あれだけやり直したいと思っていた過去に戻れるのに・・・。
過去に戻って解決できるかもしれないのに・・・。
そんなボクの気持ちを読み取って君は言った。
「今まで散々考えてきたじゃない・・・
考えてばかりいても仕方ないよ。
とりあえず、行ってみようよ・・・
私は、決してあなたををひとりにはしないから!
ねっ!」
「そうだよね、散々考えてきたんだもんね・・・」
ボクは君を信じて、過去に戻ることにした。
楽になる可能性が少しでもあるのなら賭けてみたかった。
ボクは目をつぶった。
「ついたよ」
君が言った。
ボクは恐る恐る目を開いた。
「あぁ~、この場面だ・・・
ボクが苦しかったあの場面」
「あの時いえなかった気持ち、言葉にしてみたら!?」
君が言った。
「バカヤロー!」
「やめてくれ!」
「何でお前らは見ているだけで助けてくれないんだ!」
「わーっ!!」
ボクは、あの時言えなかった言葉を言うことが出来た。
「どうだい?」
君が尋ねた。
苦しい気持ちがスッとした気持ちに変っていた。
これで、あのトラウマから解放される・・・、
そんな感じがした。
「もういいかい?やり残したことは、もうない?」
君は言った。
「うん、もう大丈夫!」
ボクは心の底からそう思えた。
こんな晴れ晴れとした気分は、ほんとうに久しぶりだった。
もう大丈夫だと、本当に、そう思えた。
君は言った。
「じゃぁ~、本当の原因を見に行こうか!」
「えっ?」
もう原因が解決したと思っていたボクは不思議に思った。
君が何を言っているのか分からなかった。
「今、あの時言えなかったことを言えて、スッキリしたよね。
でも、あの時、実際はどうだった?」
「何も言えなかった・・・」
ボクが言った。
「そうだよね・・・
で、どんな気持ちだった?」
君が尋ねた。
「悲しかった・・・、つらかった・・・。」
ボクが言った。
その一言で、ボクの気持ちはあのときの気持ちに舞い戻った。
「そうだよね、
悲しかったよね・・・
つらかったよね・・・
さぁ、じゃぁ~、とりあえず、家に帰ってみようか!」
気が付くと、ボクは、君と一緒に、『あの頃のボク』の様子を眺めていた。
家に向かう『あの頃のボク』の姿は、とても悲しそうだった。
玄関の前に立った『あの頃のボク』は、大きく息を吸い込むと、
勢い良く家のドアを開けた。
「ただいまぁ~」
なぜか、何事もなかったかのような調子の声だった。
「おかえりー!」
優しい家族の声がした。
そして、『あの頃のボク』は、自分の部屋に入っていた。
その様子を見ていた君は、ボクに尋ねた。
「今、『あの頃の君』は、とっても悲しいんだよね?
ひとりで大丈夫だと思う?」
ボクは「大丈夫じゃない!」と思った。
「どうして、一人でいるの?
どうして家族のところへ行って、一緒にいてもらわないの?」
ボクは『あの頃のボク』にきいてみた。
「だって、悲しい話をしたらね、
悲しそうにするから・・・
忙しくてボクの話は聴いてくれないから・・・
こうしろああしろって、つらい気持ちなのにしなければならないことが増えてしまうから・・・
ボクよりももっとつらそうだから・・・
お前が悪いって言われるから・・・
もっと強くなれって言われるから・・・
自分で何とかしろって言われるから・・・
だから話せないんだ。
だから、ひとりで我慢するしかないんだ。
ボクが強くなりさえすればすむことなんだ。
ボクが変ればいいだけなんだ。
変れないボクが悪いんだ・・・。」
『あの頃のボク』は答えた。
「本当は、どうしたかったの?」
ボクは尋ねた。
「いいんだって!
放っておいてよ!
ボクさえ我慢すればいいんだから!
ボクがもっと強くなればいいんだから!」
『あの頃のボク』は、怒ったように答えた。
ボクは、もう一度、『あの頃のボク』に尋ねた。
「そうだね、我慢するしかなかったんだね。
でも、本当はどうしたかった?
どうして欲しかったの?」
「無理なんだよ!
絶対に無理なんだって!」
『あの頃のボク』は答えた。
「無理って、何が??」
ボクは、尋ねた。
『あの頃のボク』は黙って考えていた。
そして、しばらく沈黙が続いた後、
『あの頃のボク』は、何かに気付いて、うわぁーっと、泣き出した。
「本当は、抱きしめて欲しかったんだよ!
抱きしめてもらいながら、いっぱい泣きたかったんだよ!」
ボクと君は同じことを一緒に言いながら、『あの頃のボク』を抱きしめていた。
「良く我慢したね。
良くひとりで頑張ったね。
でも、もう、我慢しなくても大丈夫だよ。
泣きたいときは、泣いても良いんだよ。
スッキリするまで泣いて良いんだよ。
きっと安心な気持ちになれるから。」
『あの頃のボク』は、ボクと君に抱かれながら、
ボクと君の暖かさに包まれながら
何十年も溜めてきた涙を搾り出すように泣いた。
しばらくそうしていると、『あの頃のボク』は、スッキリしたような表情で
ニコニコと人懐っこい微笑を浮かべていた。
『あの頃のボク』は、トラウマと思っていたことは、
心の苦しさの『ただのきっかけに過ぎなかった』ということを理解していた。
そして、心の苦しさを、ちゃんと楽にできる方法も!
安心な気持ちにさせてくれる場所があるということを知った『あの頃のボク』は言った。
「もう大丈夫!
また、つらくなったら、来てもいい?」
「うん、つらくなったらいつでもおいでね、
また、同じように抱きしめてあげるから。
楽しいときもおいでよ、一緒に喜んであげるから。
何もないときもおいで、一緒に暇そうにしてあげるから!」
ボクと君は、『あの頃のボク』に言った。
「うん!ありがとう!」
そう言うと、『あの頃のボク』は、
元気そうに、自分の部屋から飛び出して、
どこかに遊びに行ってしまった。
「実はね、僕たちも、つい最近、約束したんだ。
絶対に、一人ぼっちにはしないって」
そう言って、ボクと君は、
『あの頃のボク』の後姿を見送りながら、
恥ずかしそうに顔を見合わせた。
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